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マレット変形

  • 執筆者の写真: 正彦 日下
    正彦 日下
  • 3月31日
  • 読了時間: 2分

ランニングの途中けつまずき、地面に着いた手を負傷した。

かすり傷と思ったが、よく見ると左中指第一関節がくの字にまがっている。

曲がった関節を恐る恐るつまんで伸ばしてみても、こんにちわの形に直ぐに戻ってしまう。

痛みはさほど無かったし、もう指先の変形を気にするような年齢でもないとも思ったが、念の為にその日のうちに整形外科の診療を受けた。

幸い骨には異常が無かった。

マレット指と呼ばれる腱の損傷らしい。

マレットとは英語で木槌の意で、なるほど中指を見るにカクンと木槌が如く曲がっている。

医師は指が曲がらないようにするためプラスチック製の添木を数分で巻きつけ、「たぶん元のようには戻らないよ。でも最低でも一ヶ月は外さないように。」と私に告げた。


マレット矯正ギブスとの生活は二十日ほどになるが、日常生活でこれが意外と不便なことに気付かされる。車のハンドルを回そうとして曲げられない中指がワイパーを起動させたり、硬くなった広口ビンの蓋を開けるのにひと苦労だったり、今まで鷲掴みで持ち上げれたものもそれができず、粘土をこねるのも片手ではなかなかはかどらない。

これまで、例えば小指などは握る力の要になるという自覚があったものの、まさか利き手ではない中指、しかも第一関節が、それ程自身の活動に欠かせない部位だとは思いも及ばなかった。

いつも近くにいて、自分を助けてくれていた部位の筈なのに、感謝するどころか存在の有効性にも気付けなかったわけだ。

きっと同様の無知は身体の1部位に限った事ではないのだろう。

いつもそばにいるのが当たり前すぎて、その支えにも気づけず、感謝のひと声もかけれないまま通り過ごしてしまった人、もの、ことのいかに多かったか。そして関係を断たれて初めて気がつくことのいかに多かったか‥。



数週間後、マレット矯正ギブスからは解放される。

おそらく医師の言う通り、指の曲がりは残るだろう。

その曲がった指を見て、普段察しえない大切な存在がいつもそこにいることを思い出せればと思う。

そして大切な事ですら忘れてしまう“俺様”を叩く木槌となればと思う。



 
 
 

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