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『evanescent』

  • 執筆者の写真: 正彦 日下
    正彦 日下
  • 6月26日
  • 読了時間: 2分

更新日:7月10日


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アトリエから少し離れたところから

「ワン!」という声がかすかに聞こえた。

まさか‥。

庭仕事をしているツレが「ポチ!」と叫ぶ。

一瞬そんな事はないだろうと思ったが、確かにポチの声がする。

「ポチ。ポチ!ポチ〜!」

ツレは続けざまに叫んだ。

私は、ポチの筈がないと思いつつも、窓越しにツレと写る姿は確かに背丈も柄もポチそのものでしかない。

しかも若返ってとても元気がいいのだ。

庭に出て駆け寄ると紛れもなくポチそのものだった。

私は首に両手をまわし背中を撫でながら久しぶりにポチの匂いを嗅いだ。

やっぱりポチだ。

「よく帰ってきたな、もうどこにも行くんじゃないぞ!」

しっぽは大振り、ポチも同じ気持ちに違いない。

お互いに幸せな瞬間、まるで夢のような出来事だった。

生き返る事ってあるんだ。

でも本当にこんな事があっていいのか。

だってポチの最期は私たちがちゃんと見届けたはずだと悪魔の理性が脳裏をかすめる。

が、そんなことはもうどうでもよかった。

目の前で起こっていることこそ真実だ。

そうポチならおかしくはない。

だってポチだもの。

それにしてもこの幸せは何だ。

こんなに心地よい気持ちは久しぶりだ。

もしかして夢?

それならそれでもいい。

ずっと覚めないままでいてくれ。

そう思った瞬間、現実という悪魔が二つの塊を別々の世界へと引き離した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

昨日、お陰様でポチはひとりぼっちの長い旅を終え無事に新しい世界へ辿り着くことが出来ました。

彼方ではきっとたくさんの仲間達が迎え入れてくれるだろうと、清志郎さん眠るお寺の僧侶が教えてくれました。きっと真っ先に「ようこそ〜♪」と鼻歌を歌いながら自転車で迎えに来てくれたのは彼に違いありません。

今頃は、首輪もなく、仲間たちと自由に思いっきり走り回っている事でしょう。


ありがとうございます。

 
 
 

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©️美術作家日下正彦のホームページです。写真文章など転載の際は一言ご連絡ください。

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