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『 mother 』


東日本大震災と東京電力福島第一発電所爆発事故に幾許かも関わる展示の際、当時の記憶を忘れぬよう自分の為にもこの『mother』という作品を以下の文章と共に展示するように心がけております。



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 土壌汚染地図を見ると東京電力福島第一発電所から北にはるか 80キロ、今尚ポツンと赤色に塗りこめれれている地域がある。其処は、2011年3月15日から16日、20日から21日と上空に大きなプルームが漂った時、無情にも雨が降り注ぎ、まさかというようなホットスポットを形成した地域である。あまり放射能汚染地としては周知されてない地域ではあるが、チェルノブイリ法でいう移住権利ゾーンに相当する深刻な汚染度であった。


 いち早く危険を察した市民の働きかけで、子供達の遊ぶ公園や校庭、通学路など部分的除染はされているものの、広大な農地や牧草地、住宅まではとても手がとどかなかった。きれいな水源に恵まれた日本有数の米と牛とりんごの里の民は、足元の土壌が汚染されていてもさほど気にする事ではないと自らに言い聞かせ、以前と変わらず、路地ものを口にし、時には野生きのこや山菜をも食べ続けてきた。脳裏をかすめる危険という言葉を押し殺して…。

 地方の村落にとって一番大事なのは仲間と協調する事であり先祖代々続く土地を大事にする事。みんなが食べているから大丈夫。みんなが一緒だから大丈夫。ご先祖様が残したた土地がたとえどんなに汚染されていても、今更そこから離れ新しい生活をするなど考えも及ばず、しょうがないと耳を塞いで生きるしか術がないのだ。


 手拭いをほっ被り丸い背中で雑草をとる故郷東北のばっぱ達を見ていると、嘗てドキュメンタリーで見たチェルノブイリ強制立入禁止区域で黙して暮らすスカーフ姿のバブーシュカ達の姿と重なりあって仕方がない。

 しかし、私達がひき起こしたこの現実を、無知であるとか、「憂」「哀」「憤」「怒」… といった感情の一文字で済ませたくはない。

『こぼれたミルクを嘆いても仕方がない』と云い繕い、今までと同じように何度も何度も自分の都合であやまちを繰り返すのはもう止めたい。


                       2021年3月 日下正彦

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